なんかすごいムックが

あの話題のベストセラーを30秒で読む! (Vol.1) (Dia collection)
ミステリとSFのところを立ち読みしただけだけどびっくりした。
まず「姑獲鳥の夏」を完全に、あますところなく、ネタばれしてる。
ブックガイド部分ではなくて、「あのミステリーにつっこみをいれる」的な記事だし、冒頭にネタバレ予告があるけれども、ここまで完全に完璧にネタバレしたミステリ紹介?記事は初めて読んだ。絶句。しかもつっこみっていっても、あらすじ→つっこみ→あらすじ→つっこみという構成で、小学生の読書感想文でよくない例としてあげられる文章みたいなことになってる。「読んだ気になる」という意味では非常に有用な文章だが、ものすごく腑に落ちない。なんだこれは。
「ミステリはこれを読め」の部分では、社会派というか人情ものが多かった。永遠の仔とか半落ちとか。もうちょっと軽やかで謎解きっぽいの薦めればいいのにと思うが、最近のミステリベストセラーってこういうのばっかりかもなあ。短編で読後感が軽くてさっぱりしていてベストセラーっていうと、「邪馬台国はどこですか?」くらい。あーでも、さっぱり系といえば乙一とか伊坂幸太郎とかがあるか。こういうのも混ぜといてほしいなあ。
ミステリガイドは現代日本作家中心なのに対し、「SFはこれを読め」部分の第一はクラーク「幼年期の終わり」。ほかの推薦作品も、アシモフとかディックとかハインラインとか。日本人だと小松左京。そういうガイドなら、毎夏やってる早川のフェアで十分なのでは、という印象。確かにまごうことなき「ベストセラー」ばっかりだけどさ。
こういうムックは有名作品のアンチョコみたいなもので、読書好きを対象にしているのではなく、読書好きに話し合わせるために困ってる人こそが対象なのだろうとは思うけど、SFがオールタイムベストみたいな雰囲気で、ミステリがここ5年の週刊文春ベストみたいな雰囲気なのはさもありなんというかなんというか。一抹の寂しさを感じますね。話題についていこうとみんなが必死でSF小説を読み漁る日はもう来ないのかねえ*1

*1:かつてあったかどうか知りませんけど

ミームの伝播とまとめサイトの役割

ひじょーに面白い記事を見つけた。といってもあれかね、もう時代遅れかね。ミュージカルバトンネタなんだけど。
心を操るウィルス「Musical Baton」ミームの感染記録
数量的にミームとしてのミュージカルバトンを観測しているという素晴らしい記事。大興奮。たぶんもうそこら中で話題になってるだろうけど、あえて紹介したくなるよこれは!中でも、感染拡大の増殖曲線が超絶美しい。どうみても生物(細菌とか)の増殖曲線と近似。ものすごい含意だ。
著者の人は感染を観測・記録・図示するだけではなく、拡大の経緯を考察しているのだが、その中に気になる記述がひとつ。

オーソリティの役割
多くの人がこのミームを疑うことなく受け入れたが、誰もまったく疑問をいだかなかったわけではなかった。かなりの人が、これは何だ?と思って、おそらく調べている。そのときに大きな役割を果たしたのが、検索エンジンで上位に表示されている「Musical Baton」の説明ページだ。これは、日本だけに特徴的なことだが、多くのブログがこのページを参照するようにリンクを張っている。もしここに、このミームの意図や次の人に回す際の注意が書いてあれば、これほど感染が拡大することはなかったであろう。だが、そうではなかった。このページがいわば、「お墨付き」を与える役割を果たしていたように思う。「お墨付き」を与えること、これもミームの感染拡大にとって重要なことである。

この著者の人は、ミュージカルバトンチェーンメールと同等のものとして捉え、チェーンメールに対するマナーと同等のマナーで接するべきという立場であるため、あえて該当オーソリティー名を伏せて書いておられるのだと思うが(だから以下に憶測を垂れ流すのはurouro個人の責任である)、これはもしかするとid:matsunagaの人の記事のことなのではなかろうか。ためしにgoogleで検索してみると、1位がはてなキーワードで、2位が絵文録ことのはの記事である。google:Musical Batonはてなキーワードオーソリティー性についてはまた別のおはなしなので、無理やり絵文録ことのはの記事と仮定して話を進めるが(ひでぇ)、己を省みると、少なくとも自分はオーソリティー的な意味合いをこめて、ことのはのまとめ記事を参照してバトンをまわしている(そもそもそこにまとめ記事があるということを知ったのもバトンによるものだった気がする)。
バトンがチェーンメールと同じかどうかは人によって捉え方が異なるだろう。自分は同じとは思わなかったし、今でも同じとは思わないけれど*1、同じと思う人がいるのも理解できるので、マナー論争には参入しない。
ここでふれたいのはだからマナーに関する話でなくて、情報の伝達様式に関する話。「オーソリティー役」を誰が務めるかによってミームの伝播スピードや伝播範囲が変わるのだろうか?ということである。つまり、「アルファミームスプレッダー」みたいな存在を仮定することができるのかどうか*2
matsunagaさんはブログ界では老舗だし大御所だしアルファだしまとめやさん的イメージがあるので、ブロガー界隈にとってはオーソリティー性は十分にあると思う。しかしmatsunagaさんより著名度に劣るブロガーがまとめ記事をのっけてたら、感染スピードは遅くなっただろうか?
自分はそうは思わない。むしろ、「ミュージカルバトンのまとめの人」という方向で、そのブロガーの著名度があがるだけではないかと思う。ブログ界にもはてな村とかなんとかいろいろな濃淡があるが、管見する限りではミュージカルバトンは偏りを飛び越えて広範に伝播している。こんなに広範に一律に通用する権威はなかなかないだろう。また、いくつか絵文録ことのはにトラバしている記事を拾い読みしてみたが、matsunagaさんのことなど知らずに、まとめ記事だけを読んで(あるいは読むことすらせずに)トラバっている人も多いのではという気がしている。
このあたりでですね、と急に敬体になるけど、これって「ブログは記事本位」ということの一つの例証なんじゃないかなと思うわけですよ。つまり書き手のバックグラウンド(シナッチョさんふうに言えば文脈*3)など認識しないままに、まとめ記事だけパーマリンクで切り取って参照してる人も多いのでは?ということなんですけど。だからミームスプレッダーにオーソリティー性はあんまり関係ないんじゃないかなと思います。むしろそれよりは「まとめサイト」「まとめ記事」ができると情報伝達のスピードがあがるという特性の問題なのではないでしょうか。これはブログ界に限ったことではなくて、ネットで遊んでる人界隈*4全般に言えることで、特に2chで広がったネタが2ch外へ出るときには、必ず「まとめサイト」の存在が作用しているように感じます。どうでしょう?

*1:どっちかというと「百の質問!」っぽいと思う

*2:ミームキャリアーのほうがいいかな

*3:http://d.hatena.ne.jp/wetfootdog/20050716/p1

*4:ブロゴスフィアより広くて、いわゆるテキストサイトとか日記サイトとかそういうの全部まとめたやつで、商用サイトや公式サイトでないやつを表す言葉を誰か作ってください!