ファウスト vol.3

講談社ファウスト Vol.3 2004.Summer (講談社 Mook)
西尾維新二本立てと新伝綺特集の号。定期刊行化おめでとうございます。とはいえコンスタントに舞城と西尾が書くのだからプラットフォームとして定期刊行化しないわけはない、とは思っていました。なにも熱い編集魂だけではなくて熱い編集魂と冷徹な商売の論理が噛み合ったからこうあるのだと思いますが、まー商売の論理を前面に出すよりも熱い兄貴キャラ(というよりロッキンオンキャラ)を出す方が読者はついてくるんでしょうね。
清涼院流水による西尾インタビューはとっても真っ当で、流水がインタビュアーとしてきちんとしていることがよくわかりました。これはもちろん同時に載っている編集長による宇山日出臣氏インタビューのインタビュアーぶりとの対比ですが。以下PP.653より引用。

同じ講談社の人間にインタビューをするだなんて、編集者として墓穴を掘るようなものだと
批難されるかもしれないですけど、この『ファウスト』は、名状しがたい巨大な墓穴をあえて
掘るために存在している文芸雑誌だと思っていますから、望むところです。

これが太田編集長のイントロ部分の一部なのですが、えっと、同じ会社の人間だからこそ聞けることってあると思うし、名編集者の編集術にはテクニカルな興味があるし、そんなこと別に墓穴じゃないと思います。墓穴はむしろインタビューぶりです。うーん、ファンブックと思えばいいのかなあ。太田編集長は宇山さんが好きで、宇山さんが目標で、宇山さんの仕掛けた新本格ムーブメントが好きなんだなということはわかりました.だけど編集者による編集者インタビューって聞いて、そういうことは期待していないような…。これもあれでしょうか、ロッキンオン文化なんでしょうか。渋谷陽一にあこがれて入社する若いの、みたいな?あとこれは無理でしょうが、森雅裕ともめた経緯を聞いてほしかったなあ。
でもまあ、そういうぞくぞく感を楽しむために購入しているのだから、うへぇ愛好家としてはこちらも望むところです。なんか罰ゲームに使えそうですね、編集長の文章部分は。
新伝綺奈須きのこは一時期の新井素子っぽい文体だなあと。恥ずかしくて読みにくい文章でした。原田宇陀児は単純に読みにくい。元長柾木はふつう.総じて変な造語出し過ぎ。新伝綺っていうのは変な造語をばんばん出すことなのかと思わされました。あとどれも伝奇系というよりはファンタジーというかマキャモンっぽい雰囲気だなあと思いました。まあ自分の伝奇基準は半村良諸星大二郎ですが。
一冊のあちこちに太田編集長の存在を匂わせながら目次にクレジットがほとんどないという気持ち悪いつくりと(でもさすがに対談のセクションにはクレジットがありました)目次にページ数がない不便なつくりも相変わらずです。うへぇ分をたっぷり吸収するとぞくぞくして避暑にいいかも。
真面目な話、暑苦しく痛がゆいのをお商売の戦略としてやってるなら、うへぇうへぇ言わされるのも宣伝に荷担しているようにも思うのですが、コンテンツとしての作家陣にはまったく文句はないわけで、雑誌として成功していただきたいのも本心ですので、揶揄する楽しみを保持しつつ読みたい作家の新作を読ませてもらえるという希有な媒体のような気がしてきました。ファウストに乾杯。