最近のくらしと読書

しばらくでした。実は遠いところへ長い間、出張に行ってたんですよ。誰でもそうでしょうが、活字好きがこういうとき困るのはどういう活字を持っていくかというラインナップです。
自分の活字欲求はいろいろあって、1)雑多な情報にあふれたどうでもいい文字の群がほしい、2)時間を忘れるほど読みふける文字の群がほしい、3)なんべんも読み返せるじっくりした文字の群がほしい、という3種類くらいが基調です。1)は旅先で寝付きのために寝床でとか、疲労回復のために風呂に入りながらとか読むもので、週刊誌/月刊誌/新聞の類が中心です。2)はやっぱりミステリーかSF。先が気になるほどドキドキする本は、移動時間にぴったりです。ただし日本のものだとリーダビリティーが高すぎて、2−3時間しかもたないので、東京より遠いところへ行くときは翻訳物と決めています。3)は合間合間の時間をつぶす、というかリラックスのためにすがるものなので、うつくしいエッセイが最適ですな。あるいはあまり筋を追わないタイプの小説でも可。薄くて内容が濃ければ新書も可。
携帯性も重要なので大概2)と3)は文庫と決めています。文庫ならスーツケースに予備を入れて、バックのサイドポケットに数冊入れても安心なので。ノベルスはそれに比べると情報密度が薄いですよね。かさ高で読みにくいし。新潮文庫だとしおりひもがついていてよいのですが、いつもいつも新潮に読みたいものがあるわけでもないのも難しいところです。
何が恐怖って、「読み尽くして読むものがなくなること」こそが恐怖です。出張先で追加調達できればいいですが、必ず出来るわけもなく、また開いてるのはコンビニだけというような環境では、自分が満足できる活字源を調達できる可能性は極めて低いのです。その危険をヘッジするために、カテゴリ1)にあてはまっても週刊文春や新潮は旅の終わりまで買わないようにしています。とっさに旅先で調達できる可能性が高いものを最初からつぶすのはあまりにもハイリスクです。あと長い出張がわかっているときは駅の本屋ではなくて前もって本屋に行って創元とハヤカワの文庫を買っておいてから行きます。駅の本屋のような前線で、万全の補給は難しいものです。駅の本屋で心強いのはやはり新潮と文春の文庫。どちらも海外ものに結構強いので、普段は絶対読まないけど世評は高いしこの際手を出してみるか的作品にめぐりあうことができます。
今回は端的に言えば海外出張だったので、1)週刊文春、2)マイケル・スレイド「グール」上下、「カットスロート」上下、3)幸田文、間洋太郎「ミステリ百科事典」、というラインナップで挑みました。が、それはもう冷や冷やしました。だって海外ですよ。現地調達ほぼありえないのに読み尽くしたらどうやって毎日寝たらいいんだと(自分は本を読まないと寝付けない体になっています)。英語圏だったので最悪現地の本屋に行くという手はあるのですが、ガイドブックやエッセイはともかくミステリは英語で読むの難しいんですよね。どうしようもなくなったらスレイドの英語版買いに行こうと覚悟しましたが、行き帰りの機内誌などもすみずみまで読んだ甲斐あって、なんとか読み尽くさずに帰って来れました。ちなみにどうしようもなくならなかったけど念のため本屋にいったところ、スレイドの英語版はなかったです(笑。狭い新刊本屋だったからかな。デクスターもなかったし。平積みはコーンウェルの新刊でした。コーンウェルはどこでやめたんだったっけ、回顧してみたりしても思い出せず。死体農場くらいまでは自信があるんだけれども…。
閑話休題。そういうわけで、当初の計画に乗っ取り、「カットスロート」の下巻は、何があっても帰りの機内まで手をつけないと強く心に決めて滞在中の読書設計をやりくりしていたのですが、ここに悲劇がありました。「カットスロート」の下巻がまさかそんなことになっていたなんて。ありかよ。ずっと帰りのこの瞬間を楽しみにつらい日々を過ごしてきたのに。マジでなにかんがえてんだ。信じられん。責任者出てこい。と、洋上で呆然としながらぶつぶつしていました。もうボーイングも落ちるかと思うくらいのがっかりぶりでした(落ちません)。
その一点を除けば面白かったけど、むしろものすごく面白かったけど、でもあれがあれだっただけに愕然としてしまった…とまったく対象を明らかにしないまま歯に物が挟まった状態でこの話はおしまい。
君も一緒にこの呆然を共有しないか!