山ん中の獅見朋成雄

舞城王太郎 山ん中の獅見朋成雄 (講談社ノベルス)
ノベルス落ちしていたのでいつか買おうと思いつつ今ごろに。舞城がでるたびにわくわくしていた自分はどこへ行ってしまったのだろうか。所詮、奈津川サーガが好きなだけなんだろうか。
煙と暗闇の頃は、ノワールっぽい暴力と勢いの人だと思っていたけれど、いつのころからかべちゃべちゃした感じになったなーと思う。むろん、そーゆーのも嫌いじゃない、というか大好きなので、センチメンタル/叙情/甘い/青春/べちゃべちゃしたのも喜んで読んでた。世界は密室とか。
それなのにどうして、獅見朋成雄にはピンとこないんだろう。鬣の描写とかやっぱりめちゃくちゃすごくって、この人鬣生えてるんじゃないのってくらい真に迫ってるし、盆の女の子ができあがっていくところなんか、既視感を覚えるくらい完璧に描かれているし、とにかくこの作家の異能ぶりは相変わらず健在なのに、舞城ならではのびっくり感が全然なかった。煙のときも九十九のときも、頭の蓋がとぶような、えーそーくるかーとのけぞってそのまま頭から後ろに落ちるくらいのびっくりがあったんだけど、獅見朋成雄はなんか予定調和だ。はいはい超人、はいはい異世界という感じ。
それはでも舞城の問題じゃなくて、きっと自分の問題なんだろうなと思う。ノベルス落ち待ちしてるし、しかもノベルス落ちに飛びついてないし、そのうえ通勤途上で3日間かけて読んでたし、そのすべてが数年前の舞城と自分の関係ではありえなかった。自分の好みというすごく狭いスポットがあって、ある作家が作品数を増やすたびにだんだんスポットから遠ざかっているのをみるような気持ちなのかもしれない。
でもきっとこれからも読み続けるのだろうなとも思う。文庫落ち待ちするのかもしれないけどね。やっぱり好きなんだよねえ。