あなたの人生の物語

テッド・チャン:STORIES OF YOUR LIFE AND OTEHRS:あなたの人生の物語 (ハヤカワ文庫SF)
さすが短編の名手と名高いだけある。毛色がちがうのに、完成度の高い短編が揃った一冊。素晴らしい。一番好きなのは「バビロンの塔」、一番感銘を受けたのは「地獄とは神の不在なり」、一番どきどきしたのは「理解」。「バビロン−」は文章が美しく、描写が目に見えるようでファンタジック。「理解」はとてもスリリング。「地獄とは−」は子供の頃に日曜学校で聖書を教えられて以来感じていた、神の理不尽さに明快な答えをもらった気がする。家が近いから行っていた日曜学校小学生の部では納得行かないことがたくさんあったし純粋な問いに対してごまかしに思えるような答えしか得られなかったので、残念なことにキリスト教には感得できなかったのだが、そういう体験を思い起こしながらいろいろ考えてしまった。解説によれば著者は宗教に特段関心がないそうだが、キリスト教の理不尽さと美しさをこんなに明確に表した小説は少ないと思う。