音楽好きの人の語りを聴く

人は自分にないものをもつ他人に惹かれる−−というわけで大して音楽好きではない自分の友人には音楽好きというか音楽狂いの人が多い。まあ斯界があまりに深遠で広大なことは非音楽好きの自分にも想像できるので、自分が測ったところの「音楽好き」というのがどれくらいの絶対性をもつ音楽好きかということはわからないのだが。燕雀安くんぞ鴻鵠の志を知らんや。志ってほどのこともないか。
さて非音楽好きの自分は昨年末から音楽好きモードが久しぶりに盛り上がってきて、さらにiPodminiを勢いで購入してしまったが為に、iTunesを用いて音楽を聴く機会が飛躍的に増えた。あとCDをiTunesに取り込む作業が、やってみると単純に面白い。ところが大して音楽好きでもないためにすぐに手持ちのCDを取り込みきってしまい、最近は周囲の音楽好きにおすすめCDを借りて歩いている。余談だが、他人に乞われて自分のお気に入りをレコメンドするほど楽しい行為はないのではないだろうか。感謝されてもいいくらいだ。いや感謝はいいから、こっちにミステリ(あるいはSF)のレコメンドを乞え−−と思ったけど、なーんか本ってCDほど気軽に借りてくれないんだよね。本棚にこれ見よがしに講談社ノベルスとかJ.ディーヴァーとか並べてあるのに。残念至極。
閑話休題。そんなことをやってると当然、今までにないくらいいろんなジャンルのCDを聴くことになる。プレイリストで管理していると、アルバムとしてのトータルのコンセプトよりも、曲ごとの好き嫌いが強く効いてくる。なのでレコメンしてくれた人は、総体としての思い入れ−そのミュージシャンの歴史とかそのジャンルの歴史とかから曲のつなぎっぷりとかジャケットデザインとかまで−にもとづいてるのに、こちらは曲単位の印象の方が強くて、礼儀として感想を述べても微妙に噛み合わないことがある。自分はオタクにオタ説教されるのがかなり好きなので、そういう時は好んで「お前は分かってないよこのアルバムの重要性が!」みたいな語りにつきあうのだが、iTunes的な利用にもっとも遠いのはジャケットデザインなんだなあということがだんだん分かってきた。で、先日、ダウンロード販売が一般的になったらジャケットとかに思い入れがある人は残念だね、と音楽好きの一人に話をふってみたら、何かスイッチを押してしまったようでいきなりいろいろまくし立てだして超おもしろかった。曰く、「CDになってサイズが小さくなった時点でもうダメ」(そこからか!)、「変形ジャケットには興奮するものでしょう?!」(なにそれ?)、「変形ジャケットを胸に抱きかかえて電車に乗って帰るあの喜びの日々!」(……?)、などなど。ほかにもいろいろあったけどよくわからんくて忘れてしまった。はてなは音楽好きの人が多いから、こういうのは当然のはなしで何をアンタ今さら言ってるんですか?って呆れられそうだけど、いやーほんとうに超おもしろかったのだ。
音楽好きの分布って、多分、正規分布のはしっこがすごく長いやつで、上位5%くらいがほそくながーく存在しているんだろうと思うけど、ここらへんに所属する人はダウンロード販売が主流になってもこういう総体としての思い入れによってCDとかを買い続けるのかなと思った。むしろミュージシャンの販売戦略が、どの層を狙うかによって変わってくるのかもしれないけど。あ、でも、利益率からするとCDをプレスする方がいいのかな?その辺のバランスでも変わってきそう。翻って同じデータ販売と言うことで考えてみると、本は電子メディアがイマイチなのでまだダウンロード販売で買う気はしない。モニターで字読むのしんどい。装丁に対する思い入れは個人的にはあまりない。むしろレーベル(○○文庫とか)で統一感のある装丁が気持ちいいので、単行本もってても文庫が出たら買い直したりしてしまう。本棚に並べた時に気持ちいいから。こういうレーベル萌えは音楽好きにもあるのかな?
とかなんとかいろいろ連想も広がるわけだけれどそれは別にして、レコードを買った経験がなかったので「変形ジャケット」というのを初めて知ったのと、なんかそれにまつわるノスタルジーあふるる思い入れを聴いたのとで、インパクトある語りだった。あまりにも趣味に没頭している人は、趣味ジャンル内での自分の位置は分かるけど、それと一般界との乖離はわからないみたい。「自分なんてまだまだオタクとは言えない」とか「こんなのジョーシキ、自慢にもならない」とか言ってるけど、いやぁ、だいぶ常軌を逸してるし、だいぶおもしろいよ。中の上くらいの、日常生活では決してそう見えないオタクが、突然熱意を込めて思い入れを語り出すのは、超おもしろいし、超すてきだ。彼らの言ってることは別にオリジナルではなくて、同ジャンルの人が聴けば常識だったり定説だったりするだろうから何か新しい学説をオタク論壇に付け加えるわけではないだろうけれど、生活の中の人間関係を豊かにするオタク語りだと思う。うざがられない程度にとどめるのがポイントだけど、たまーに飲み会で見かけるくらいの頻度であり、かつ閾値を超えてあふれ出す感じなら見ていて十分面白い。だからちょっと気になるあの人に、趣味の話を聞くのは多分おもしろいよ。おすすめ。まーでもロリペドについて語られると面白がるのも困難かもしれないなあ。