あの頃の少女漫画とひうらさとるとサブカルチャー

先日、酔っぱらって無駄に熱くひうらさとるこそサブカルだーとかとくだを巻いたことの続きを簡単に。
あのころの月刊少女漫画誌の代表はやっぱりりぼんで、なかでも「星の瞳のシルエット」は200万だか250万だかの乙女の紅涙をしぼったことになってたけれども、自分はなんといううじうじした漫画だと思ってうんざりしていた。「君の名は」以来の伝統的メロドラマ形式である“すれちがい”を基盤においたこの漫画は、メロドラマとして実によくできていて、よくできていたけれどもそのよくできているぶりが当時の自分には痒くて、いたたまれなくなるような気がしていた。自分は今でもなのだがメロドラマが苦手だ。たとえば矢沢あいも「風になれ!」はまあまあよかったのに、「マリンブルーの風に抱かれて」でぐっとメロドラマよりになってとても残念だった。この頃のりぼんは、メロドラマと学園物とファンタジーと何にも分類できないものからなっていて、自分はこの“分類できないなにか”に惹かれて読み続けていた気がする。だから気に入っていたのは、高橋由佳利とか谷川史子とか。岡田あーみんは絵が苦手だったけど、すげーこんなのありかーと思いながら読んでいた。それからなんといっても「有閑倶楽部」。等身大の世界なんかからすっとんだパラダイスと、カラッとした陽性の雰囲気がとても好きだった。一条御大に限っては、メロドラマでもなんとなく許容できたのだから我ながら適当だ。
一方、りぼんの対抗誌のなかよしでも「指輪物語」というすれちがいものが人気だった。世の中全体にメロドラマ網がかかっていたのかもしれない。このころのなかよしといえば、あさぎり夕とか松本洋子とか。りぼんよりはファンタジーが少なかった印象がある。あとセーラームーン以前の武内直子。繊細な絵を描く人で、メロドラマは苦手だなーと思いながらもその絵のキラキラ感にやられて頑張って読んでた。「ミス・レイン」とか大好きだったなー。なんでセラムンになったのか。実に不思議だ。
で、そういうメロドラマとか学園ラブコメ全盛の中に、ひうらさとるがあったんですよ。初体験は「レピッシュ!」。まず登場人物の設定がぶっとんでる。ピンチを切り抜ける時の切り抜け方がぶっとんでて爽快。嫌な人が出てこない。主人公がちゃんと苦労する。脇役がしぶい。なんかもうねえ、パーフェクトに素晴らしい作品だと思う。この人の作品はどれも、基本的に出てくる人が前向きでしっかりしているので、読むとぱぁぁぁっと目の前が明るくなるところもスキ。ちなみにこの「ぱぁぁっと」とか「スキ」とかいうのもひうら漫画から取り込まれた語彙だ。どうだ。あと「レピッシュ!」のチャコの「思ったことしか言わない」というのはその後しばらく自分の座右の銘にしてたくらいだ。どうだどうだ。
まあそういうわけで、ほかの漫画とカラーが違っててかっこいー!というのが最初の印象だった。そしてそのうえに、漫画のタイトルが「レピッシュ!」で主要登場人物のひとりが「マグミ」なんだからもう、ねえ。そのころ、バンドの方のレピッシュは「パヤパヤ」とかヒットしていて、たぶんおしゃれな大人の人たちにはごくふつうによく知られていたのだろうけれども、地方でなかよしとか読んでた子供にとって(でもレピッシュの存在は知ってた。なぜだ。)、テレビの音楽番組に出ないようなバンドのフィーチャーがフツーの顔してまぎれこんでるのはものすごく衝撃的だったのだ。フツーっていうのが憎いよ。作者が今、好きなものをちょっとあしらっただけですよ?みたいな気軽な感じ。いやらしく説明したりしないの。そこにお子さまとしては、都会のサブカルシーンの匂いを嗅いだわけです。で、その次の「月下美人」は、これはもう夜遊びしてない人には描けない漫画だとしかいいようがない。地方の子供が普通に入手できる漫画雑誌でこんなに夜遊びのかっこよさが描かれたことがあったかと主張したい。いや一条御大の作品も夜遊びしてそうだったけど、行く店が違うって感じだな。一条先生がバーならひうら先生はライブハウスみたいな。「月下美人」はモデルだしデザイナーだしバンドだしライブハウスだし、ほんとにサブカルのキラキラがつまった漫画だった。都会の高校生ならこんな高校生活がひらけているのか…と思って、心底かっこえーと憧れていた。で、「パラダイスカフェ」。これはひとえに美味しそうで美味しそうで。こぐれひでこを知ったのは、単行本のおまけコーナーからだったなあ。もうこのころにはMacユーザーであられたのではなかったっけ?単行本おまけとかあとがきとかに垣間見える作者の生活がまたかっこよさげで憧れてました。憧れてばっかりやなしかし。
「パラダイスカフェ」が終わるあたりになかよしを読まなくなったので、次第に生活の中からひうら漫画の陰がうくすなっていたのだが、2年くらい前からたまたま手にしたYYに載っていたり、kissに載っていたりするようになる。おーまだ元気で頑張ってるんだーと感激して、「パラダイス〜」以降の単行本を集め出すようになった。ほぼ10年ぶりくらいのひうら体験。そうしたらですよ、インテリアデザインの作品とか、広告デザインとか写真家とかの作品を描いておられたんですよ。イームズの椅子とかが話の重要アイテムだったりするんだよ。それが相変わらずさりげなくでてくる。いやー、うれしかったなー。やっぱりサブカルチャーの匂いがぷんぷんしていたから。本当にこの人はおしゃれな人で、自然にそういうのが好きな人で、それをいやみなく作品に取り込める人なんだ、と改めて惚れました。
そういうわけで、地方の子供で小遣い少なくて夜遊びなんかとんでもなかった時代に、サブカルチャーぽいいろいろに想いをふくらませるようになったきっかけの一つは、断固としてひうらさとる漫画だと主張させていただきます。岡崎京子とか桜沢エリカとかそういうとはまたちがう文脈で、少女漫画の中のサブカルチャーを語る際には、ひうらさとるを取り上げて欲しいといつも思っているよ。
しかし改めて書きだしてみると、ここまで強烈に影響を受け、かつ憧憬している人にミュージックバトンを回したなんて、なんてurouroさんったらチャレンジャーなのかしら。今さらながら、手が震えてくるよ(笑。まったく、技術の発達ありがとう、はてなダイアリーありがとう、ミュージックバトン考えた人ありがとう、回してくれた人ありがとう、すべてのものに感謝!