遅れてきた80年代キッズ

 よく行く本屋で"別冊宝島復刻フェア"が行われていたことは何日か前に書いたが、同じ本屋の新刊コーナーに「ビックリハウス」の記念版のようなものが出ていた。「音楽誌が語らないJ-POP批評」はバンドブーム・クロニクルだし、80年代ブームは少なくとも行きつけの本屋では席巻しているようにみえる。
 ブーム自体についてはいろいろな論考があるのでひとまずおく。自分のことを考えてみたい。
 自分にとって80年代は小学生から中学生の10年間だった。80年代のウキウキしたような、ざわざわしたような雰囲気は感じてはいたが、購買力もなく時間の自由もなかったお子様としてはとっぷり時代に浸かっていたとはとても言えない。好きな音楽はTM-NETWORK、米米CLUB渡辺美里など一連のソニーっぽいところ、情報はPATI-PATIやGuitar Bookで集めていて、歌謡曲よりはFMラジオ、たまには洋楽も聴いたし、ハノイ・ロックスが表紙のときには洋楽雑誌も買った。テレビの音楽番組は断然、夜のヒットスタジオ。漫画やアニメはまあ普通に享受していて、友達の中には同人誌を読んだり買ったりする子もいたのでつれられてアニメイトにも行ってみたりした。総じてこのような80年代消費をしていたと思う。
 ビックリハウスとか宝島とかナゴムレコードとかインディーズとかいうのは何となく知っているけれど遠い霞のむこうにあって、あこがれてはいるけれど身近ではない。そんな感じだったと思う。TMの代わりにバービーボーイズだったり尾崎豊だったり、固有名詞は趣味によってずれることもあるが、大筋では周囲の友達もそういう感じだった。
 地方の住宅都市のぬるま湯コミュニティの自分にとっては、なんとなく80年代的もろもろの表象は自分の好きなものだ、という匂いは嗅げども、どうすればそれにさわれるのかなど想像もつかなかった。ライブハウスとかあるらしい、夜遊びで知り合う人間関係があるらしい、向精神薬とか手にはいるらしい、らしいらしいらしい。漫画や雑誌などからうっすらそういうトンガリ世界は見えてくるものの、実際の自分は地方のベッドタウンで親に言わない外出などしたこともない普通の中学生だった。
 90年代になり、高校生にさらには一人暮らし大学生になると行動の自由が飛躍的に拡大する。金銭的な余裕もやや生まれた。ところが、もはや80年代は去りぬ。好きだったバンドは解散し、お金がなくてあきらめたビデオはもう絶版。ビックリハウスはとっくに廃刊、宝島はエロ雑誌に、別冊宝島すら、競馬ギャンブル・資格特集になっていた。
 それでも青春は進む。それなりに時代に順応して楽しい日々を暮らしていた。綾辻行人館シリーズは止まっても、森博嗣のSMシリーズはどんどん出る。という訳で、まあまあ納得して90年代を過ごしてきた"80年代に遅れたお子様"の自分としては、00年代の80年代ブームには高嶺の花だった初恋の人と再会、のような気がしてならない。中学生の頃の5歳の年齢差は大きいけれど、20代後半で5つ上なんて余裕でオッケー。そういうあのころを追体験したい自分が、別冊宝島復刻とかビックリハウス復刻とかについふらふらとお金を落としている次第であります。
 真っ只中より少しはずれた世代からの80年代ブームってそういうこともあるんじゃないですかね。