生物工場と臓器移植と遺伝子組み換え

遺伝子組み換え話のつづきを一席。遺伝子組み換え技術の有り様は、品種改良よりも生物工場の方がぴんとくると思う。
その前に少し整理をしておこう。「遺伝子」というのは概念であって、その実体はDNA(デオキシリボ核酸)という物質。このDNAの配列が暗号になっていて、並び方によって異なる種類のアミノ酸をコードしている。アミノ酸は結合してタンパク質になり、タンパク質が生命のいろいろな機能を担っている。人間で言えば血や肉や骨といったハードもタンパク質だし、酵素というソフトもタンパク質だ。
そんで世の中ではある種のタンパク質が不足していたりする。さらにそのタンパク質が化学合成しにくいとしよう。さりながら、そのタンパク質をコードしているDNA配列はわかっている、という場合、遺伝子を発現させてタンパク質をつくればいいという発想はわりとスムーズに出てくるんじゃないかな。しかし遺伝子の発現とかその他もろもろは生命活動なのでそこだけを取り出して行うことができない。
そこで遺伝子組み換え技術が活躍する。そのタンパク質をコードする遺伝子配列を他の生物にぶっこんで、その生物の体内で大量にタンパク質をつくり、そっから回収すればいい。というわけで牛やら羊やらに人の有用遺伝子を組み替えて、牛乳や羊乳からタンパク質を回収する生物工場ができあがる。
ジェンザイム・トランスジェニック社(米)がヤギを製薬工場にすることに成功したニュース
http://hotwired.goo.ne.jp/news/news/Technology/story/2447.html
PPLセラピューティック社(英)がヒツジにヒトの遺伝子を導入することに成功したニュース
http://hotwired.goo.ne.jp/news/news/Technology/story/2789.html
ニュージーランドで牛にヒト遺伝子導入しようとしたら論議をよんだニュース
http://hotwired.goo.ne.jp/news/technology/story/20000803306.html
ってホットワイアードは遺伝子導入に詳しいな(笑 
この話はわりあいに奥が深い。他の生物を製薬工場チックに使うというのはどうも気味が悪い。が、人間の医療に役立つとなればあんまり気軽に気味が悪いなんていうもんじゃないかなあと思う。もしかして自分の近い関係の人間が、こういう手法でつくられたタンパク質によって命を救われるなら、と思うし、現代の牛乳生産現場を考えると牛乳なら良くてタンパク質ならダメなんて線が引けるのか?とも思うし。
そこでさらにもういっこ気味の悪い話を。
臓器移植用「クローン豚」成功
http://www.sponichi.co.jp/society/kiji/2002/01/04/09.html

豚の臓器を人間に移植した時に起きる拒絶反応の原因となる遺伝子の働きを抑えたクローン豚づくりに、米韓両国の共同研究グループと、
英国の企業PPLセラピューティクス社が相次いで成功した。共同電によると、人間の臓器に大きさが似た豚の臓器は、慢性的な臓器不足
解消の決め手になると期待されており、両グループとも「移植医療に使う豚の臓器生産に向け大きく前進した」としている。

スポニチは2年も前の記事もweb上に残しているとは余裕だな。まーそれはさておき、豚の臓器が人間のそれとよく似ていて移植用臓器として超☆期待されているというのは、この業界ではふつうのことのようで「豚 移植用臓器」で検索すると批判も期待も技術革新もざっくざっく拾える。上に引いた「拒絶反応となる遺伝子の働きを抑えた」とは、遺伝子操作によって拒絶反応を引き起こす物質の生産のもととなる遺伝子を破壊した、ということなわけだが、こういう処理を「ノックアウト」という。ノックアウト処理でもだいたい遺伝子組み換えと似たような手法をつかう。ノックアウト処理ではなんといってもマウスが有名で、ノックアウトマウスは超大活躍かつ超気味悪いのでノックアウトマウスで検索するのもぜひやってみてね☆って感じだ。
しかしまあ倫理とか生活実感を置き去りにしてこういう気味の悪い技術がばんばん高度化していっているわけで、技術の進展よりもそっちのほうがこわいよ。つーか世間にふせて技術がつっぱしっているかんじ。できるからやろうってな感覚でかまわんのかねえ、本当に。自分は豚の臓器で延命するのはちょっと自信がないなあ。え、俺って半豚?とか思っちゃうんじゃないかと。
最後に日本学術会議が遺伝子組み換えをこども向けに説明していたのでご紹介。わかりやすいようなわかりにくいような。
http://www.scj.go.jp/OMOSHIRO/NOBEL/watson/watsonindex.html
あと国立遺伝学研究所の電子博物館。こっちはちょっとわかりにくいか。
http://www.nig.ac.jp/museum/index.html