生首に聞いてみろ

法月綸太郎角川書店生首に聞いてみろ
本当に久しぶりの新刊だけれど、いいところがいいままで、いつもの、というか待ち望んでいたのりりん節で本当に嬉しい。しかし話の核となる彫刻を思いつき、それにたいする評論をつくりあげる作業を思うと、時間がかかるのもしょうがないのかなあ。それとも、美術に疎いからよくわからないけど、美術好きの人は皆こういうことをつらっと書けるのだろうか。そういう彫刻がいかにもあるように、ありそうに読めるというのはものすごいことだと思う。実際に世の中にあるなにかをモチーフにして書かれたのだとしても、この描写力は尋常ではないよ。筋立てについては、昔に比べて二転三転という印象は薄れていて、ごく素直な展開に読めた。あんまり綸太郎が誤った解釈を開陳しないからかな。それにしてものりりん(作家)の文章は美しい。この人はトリックや筋立ても素晴らしいけれど、描写の力がある人だし文体がスタイリッシュな人だと思う。っていうかそこがすごく好きだ。
ところで殊能将之先生のweb日記に見る「生首」評はかなりつぼにはまった。
http://www001.upp.so-net.ne.jp/mercysnow/LinkDiary/links0410.html

 法月綸太郎『生首に聞いてみろ』(角川書店)を読了。
 おもしろかったので、心おきなくおすすめします。およそ10年ぶりの長編だというのに、大作めかしたところがなく、
むしろ軽みさえ感じさせるところがよろしい。作中の美術評論家の文章が、いかにもそれらしいのに感心しました。
 せめて2年に1冊、こういうミステリを読ませていただけませんかねえ。

簡潔にして十分という見本のような短評なのだけれど、もちろんわらったのは「せめて2年に1冊」のくだり。たしかにシュノたんは1年に1冊ずつコンスタントに出てるんだけど、読者としてはシュノたんにはもちろん1年に1冊以上読ませていただけませんかねえ、と思っているわけで。とはいえ先生の刊行ペースでこういうことを日記に書くとこの種のつっこみが頻出するのは承知の上だろうから、これはなにかものすごい皮肉オチなんだろう。黒い笑い好きの殊能先生らしい感じもして、もうなんか、2重3重におもしろいなあ。深読みでしょうけど。
しかし、のりりんとあーやと山口雅也が同時期に刊行というこの秋はなんだかもったいないねえ。三者の中ではまだのりりんしか読んでいない。暗黒館は評判はあまり芳しくないようだが、playはそもそも口の端にのぼっていないのはなんなんだろうねえ。
以下にネタバレ込みの感想を。

「ありえない石膏像」のところで、暴力的な手法によって生きた人間から目を開けたキャスティングをやったのかと思って、ものすごく悲惨なことをいろいろ発想してしまってしばらく止まっていた。目を開けた→デスマスク、という連絡はすぐにはつかなかったなあ。しかしこの作者は兄弟姉妹の入れ替わりというギミックを実によく使うけれど、そこにこだわる心理はなんなんだろう。おもしろい。