オタク論 腐女子論:期待

何度も言いますが今回の議論のきっかけは腐女子論ではなくて書店経営論のはずです。ここには疑問はないので、きっかけの話題すら腐女子論に位置づけようとする立場には与しません。が、腐女子議論の方がすっかりもりあがって、いろいろな意味でおもしろいのであえてそちらに流れます。
既に幾度か述べましたが、自分はオタク論や腐女子論は仮説ばかりが先行してモノグラフが積み上げられていないのが問題じゃないかと思っています。またいわゆる高名なやおい論(ここでは主に中島梓をイメージしています)は、いわばやおい名士の手になるものが多く、ふつうの人=隣の席の女の子がなぜ男性同性愛二次創作に嬉々としてはまるのか、という疑問には応えていないような気がします。したがって今必要なのは、やおい常民に注目した、腐女子エスノグラフィーとかそういう種類のものだと思っています。語りの収集でも社会心理学的手法でもいいですが、仮説よりはもうちょっと生データを読みたい気分です。めちゃめちゃ自分の趣味に添ったことを言えば、腐女子とかオタクとかいうのはそれでもってひとつのエスニックグループだと思うので、民俗学民族学や人類学が蓄積してきた手法が応用できるのではないかと思っています。現状では社会理論に結びつける視点の方が一般的で、対象にがぶりよって参与観察なり聞き取りなりしたレポートはあまりないのかなあと思っています。ただしこの辺、不勉強なので印象ばかりですが。そういう意味で、emifuwaさんの「ドリを歩いて*1」には大変興奮しました。このレポートは非常に鮮烈なフィールドからのレポートです。こういうレポートを読みたいのだ、と強く思います。またXQOさんのあとからあとから出てくる参考文献の山も圧巻です。文献史学的立場からも、実証主義的な検証が十分出来そうです。
なぜやおい論を読みたいかというと、やおいが不思議だからに他なりません。やおいする人々について知りたいのです。だからやおいする人々に反発される言説にはちょっと首をかしげます。たとえば民俗学的な調査をする際に、なんでもいいのですがたとえば行商人のエスノグラフィーを書くとして行商人について歩くとします。ついて歩いて観察するとともに、いろいろなことを教えてもらおうと質問します。最初の内はたいてい相手にされません。「お前なんかに説明したってどうせわからん」といわれることは多々あります。それを「いやいやそんなことないですよ」とか「それはまあそうなんですけど...ハハハ...」とかいってしつこくくっついて歩くのがひとつの調査のやり方です。自分はそういう調査法が好きなので、「わかってない」とインフォマントに言われることはよくあります。ほんとに「わかってない」のですからしかたがない。でも気にせずずっとくっついて歩いていると、ふとした拍子に内側に入れてもらえることがあります。するとだんだんいろいろ「わかって」くるようになったりもします。そうなるといろいろおもしろい話が聞けたりするんですね。こういうタイプの、外部者がコミュニティに没入してのレポート、というのがあると、やおい論オタク論に新たな展開かなと思うのです。
マンガ学会もできたことですし、この種の学術的な調査というのはそのうち充実してくる、と楽観していますが、それをさらに調査でとどめずに、一般的な出版物にしてもらうとおもしろそうだなあと思います。具体的には、永沢光雄の「AV女優」みたいなやつの腐女子版みたいなのが出るとおもしろそうですね。もちろん男子オタ版でもおもしろそうです。
いずれにせよ、まずその内部構造を明らかにしないと、ジェンダー論にもっていくのは困難なんじゃないかなあと思っています。いろいろな意味でジェンダー論はやっかいなので、いきなりそこから入るのは危険かなと。興味の持ち方は人によっていろいろなので、なにがどうとは一概に言えないのが当然なのですが、自分にとってはジェンダー論とか汎オタク論はもう少し後で来る問題で、まずは腐女子集団論だと思います。ただ「腐女子」って「狩猟採集民」くらい広いカテゴリに感じられますので、アニパロ系腐女子論、ナマモノ系腐女子論、ドリーム腐女子論などなど小集団に絞って論じた方が密度が濃いんじゃないかなあと思います。
とここまでぐじゃぐじゃと言っておきながらも、自分で調査するつもりはないのがだめなところで、実際のところ自分でやろうとしない人間にできるのはぐじゃぐじゃいうことぐらいなんですね。わー非生産的。今やるにはお金も時間もないので老後の楽しみにでもとっておきます(笑 。おもしろい腐女子論を誰かにぜひものしていただきたいものです。今突然思いましたが、コミケには医務室ってありますよね。医務室にお医者さんがいるなら、「北洋船団 女ドクター航海記」みたいなのもできたりしないかなあ。

追憶してみて

XQOさんに触発されて追憶。世代的な問題かもしれませんが、いわゆるやおい同人誌は、サムライトルーパースラムダンクあたりを知ったのが最初です。土地柄かダウンタウンものというのもありました。ナマモノ、というやつでしょうか。雑誌はJUNEです。小JUNE、大JUNEなどと言っていましたね。薔薇族とかさぶは見なかったなあ。ライトノベルでは炎のミラージュとタクミくんシリーズ。後者は、今から思えばボーイズラブだったのかも。マンガではバナナフィッシュやB.B.B.あたりかな。
自分自身は腐女子というわけでもなく、当時懇意だった友人にひきずられるままこの界隈をうろうろしていました。上記にあげたようなものも、すべて貸し付けられていました。しかし貸されるままに喜んで読んでいたのは、ひとえに面白かったからですね。同じ原作を見てもこう見えるのかこの人たちには、という興奮は大きかったです。とくに青磁ビブロスから出ていたトルーパーアンソロジーは衝撃的でした。商業的に同人世界が取り扱われているのか、というのは目から鱗な思いをしました。面白いことにトルーパーはアニメを見ていなかったので、最初から二次創作しか知らず、そのためどのような同人表現に対してもさして忌避を感じず受け入れられました。スラムダンクとかダウンタウンとかにはちょっとひいた覚えが。これらが最初だったら、たしかになんらかのフォビアになっていた可能性はあります。
当時の先達であった友人ははたしていかなる経緯で同人っ子になったのでしょうね。今にして思えば不思議です。高河ゆんとか尾崎南とかもその友人に教えてもらいました。地方都市の、ごく普通の学校に、そういうことに通暁した学生がいたというのが面白いことです。しかも布教していてね。なんでそんなことになったのか不思議なことですが、当時としてはごく自然にそうなったのでした。いやはやおもしろい。

腐女子ネタ つづき

http://d.hatena.ne.jp/goito-mineral/20040818 より

こういう記述があるのに、「emifuwaさんの語りには「世間」は含まれているが「男子オタ」は含まれていない」
というのはちょと無理があるんじゃ?>urouro360さん。たしかにぼくは、この部分を拡大したし、そこを中心的な
話題として持ってきた。そのことへの批判ならわかるんですよ。しかし、「含まれていない」ってのはどうなんですか。
それはやはり誤読じゃないの? こういうのをみつけると、それをurouro360さんの「否認」とみなし、そこを梃子に、
今度はurouro360さんの心理の解析をはじめちゃうよ〜オレはw。

二重引用めんどくさいのですみませんが「こういう語り」についてはgoitoさんのほうをご参照いただけると幸いです。で、心理解析をはじめられても困ってしまうので(笑い 、 この件について返答しておくと、いやそれはもうみごとに読み落としていました。失礼失礼。というわけで昨日のエントリから、「男子オタは含まれていない」は取り下げます。でもねえ強弁するようですが、やはりここでemifuwaさんが語っていることというのは、「男子オタのホモフォビアによる反発への反発」かというとそうでもないと思うのですね。なぜemifuwaさんがここで「男子オタ」という語をチョイスしたか、という問題はあるのでしょうけれど、自分にはここは「二次創作に興味がない漫画好き」というのと交換可能なんじゃないかなと読みました。だから自分の読解の中に「男子オタ」がきれいに落ちていたのでしょう。だからホモフォビアなんじゃなくて二次創作フォビアなんじゃないかと思うんですが。goitoさんが「男子オタ」という言葉に与えているのはもう少し違う意味なんじゃないかと思えます。ただこの辺ちょっと面白いのは、二次創作をする女オタと二次創作をする男オタどうしはどう認識しているのでしょうね。あと男女カップル二次創作についてはどう考えればいいのでしょう。たとえばアイシールドの原作が昨今急速にヒル×まもを煽り立てているように読めるのですが、単行本一巻のころのヒルマモ萌えだった人のなかには、原作がそれっぽくなると醒める、という意見もあるようです。これを知ったときには、なんつー奥の深い世界だ二次創作は...と感じ入りました。それはさておき、ヒルマモ萌えしている人がアイシールドの売り場POPで、「今もっともそそる男女カプ」というPOPをつけられるとやっぱり激怒すると思うのですが、自分にはこの問題もそういう感じなんじゃないの、と思えて仕方ありません。ジェンダー論っぽく展開する前の問題なんじゃないの、ということです。
といってもですね、もはやそれをご本人に確かめるすべもかなわずといいますか、自分は自分の思ったことを語るのみなんですね。それがもったいないと思ったので、昨日はつい、一次資料提供者前にして勿体ネー!と書いてしまいましたが、人には人の立場があるのでgoitoさんが一次資料採集にぴんとこないというのも当然だと思います。あくまでも自分の個人的な感覚と興味の性向にしたがえばそうは出ないのにな、ということです。マンガ評論ままあれどマンガ愛好家ライフヒストリーみたいなのはまだまだ手薄に思えますので充実すればいいとは思いますが、実証主義も万能ではないですし、どういう手法をとるかは研究家のオリジナリティの部分も大きいですし。
正直に言えば、自分は傍らから見ていて、goitoさんの第一弾にある「そんなに卑屈にならないで、もっと堂々としてなよ」という部分は不遜だと感じました。好きで内向している人を卑屈になっていると誤解しているよ、と読解したのも原因ですが、単に口語的よびかけ表現の印象の問題もあります。ここが単に「腐女子は卑屈になっているのか」という疑問提示だけだったら世界は違っていたのじゃないかと思えて仕方ありません。あとまあ自分の奥底には腐女子を足がかりに結局男子オタにどーぞこーぞ言いたいだけちゃうんか、という疑念もあったわけですが、これに関してはそんな皮相なレベルではなく、goitoさんが本当に男子オタ×腐女子モンダイを取り扱いたいということがよくわかりまして解消いたしました。全体的に見てですね、初手で相手をカチンとこさせておいて、そのあとに「内面の言語化という、これはこれでたいへんハードな要求ですので、さあやれ、すぐにせよ、とはいいません。」と言い放てるのはもはや喧嘩師のレベルだと思います。さらにそこで相手が脱力後退するのをみて「「わかってほしいけど、わかられてたまるか」という態度に出会うたびに、私はひどく悲しい気持ちになるのですよ。」と言ってのけるのはもはや芸術の域に達しています*1。人間技とも思えません。あててこすっているわけではなくて心からそう思っています。ま、言わずもがなのことですがディスカッションの中身ではなくて外側に対してそう思っちゃう感受性もあるという例をあえて言語化してみました。もちろんこれこそ感受性の問題で人がどうのこうのいえることではない事象の極北ですが。なぜ議論がすすまなかったかに対する理解の一助となれば幸いです。

*1:時系列からいって、こうつまむのは捏造だそうです。失礼しました。詳細はコメント欄をご覧下さい。